東京地方裁判所 昭和32年(ワ)1225号 判決 1959年3月26日
常磐相互銀行
事実
原告株式会社常磐相互銀行は請求の原因として、原告は訴外斎藤知茂との間に、昭和二十九年三月二十日、同訴外人に対する従前の貸金二口計金十八万三千円について、利息年六分弁済期同年五月二十日とする準消費貸借を締結し、同訴外人から、同年八月七日に金二万八千円、同年十二月二十二日に金五千円の各支払を受けたので、同日残金十五万円について、弁済期を昭和三十年一月三十一日と定めたところ、被告蕪木秀雄は右訴外人の債務について連帯して保証した。ところで、右保証は被告の妻が被告の代理人としてなしたものであるが、仮りに被告の妻に被告の代理権がなかつたとしても、被告は、同年十二月末頃、被告の妻の無権代理行為を追認した。よつて原告は被告は被告に対し、前記訴外斎藤知茂の保証人として、貸金十五万円及びこれに対する完済までの遅延損害金の支払を求めると主張した。
被告蕪木秀雄は答弁として、被告は、訴外斎藤が原告と当座取引をする際、同訴外人の保証人となつたことはあるが、同訴外人の貸金債務について保証人になつたことはない。又、被告の原告に対する手形債務について、被告の妻を被告の使者として原告方へ赴かせたことはあるが、右訴外人の債務について被告の妻に被告の代理権を付与したことはないと主張した。
理由
証拠によれば、原告は、訴外斎藤知茂に対し、貸金債権残金十五万円を有し、昭和二十九年十二月二十二日、これを昭和三十年一月三十一日に支払う旨約したことを認めることができるが、被告が右訴外人の債務について連帯して保証したとの事実は、結局これを認めるに足りる証拠がない。すなわち、訴外斎藤が原告と当座取引契約をするについて、被告が保証人となつたことは被告が認めるところであるが、証拠によれば、当座取引契約の保証人は右取引に基いて小切手の不渡が生じた場合等に責任を負うものであつて、手形割引或いは手形貸付の取引をするについては、これとは別にその取引契約を締結するものであることを認めることができるので、前記保証の事実が直ちに本件債務の保証になるものとすることはできない。又、当時の原告銀行池袋支店の行員木村正光の証言によれば、内田支店長から訴外斎藤の債務について被告を保証人にしておけばよいとの趣旨をいわれたが、その後被告の妻が書類に記入捺印しているのを見たことがあるので、それが被告が右訴外人のために連帯保証をしたという約束手形であると思つていた旨、さらに被告の妻蕪木喜久子の証言によれば同人は、被告の原告に対する手形債務の書替のため被告の使者として原告銀行池袋支店へ行つていたが、被告の諒解を得てあるから署名をしてくれといわれて、被告の印影があるが住所氏名の記入をしてない訴外斎藤振出の約束手形の被告印影の上部に被告の氏名を記入したとのことを各々認めることができるけれども、果して被告が原告から前記訴外人の債務の連帯保証を依頼され、それを承諾したかについてはこれを認めるに足りる証拠はなく、却つて被告本人尋問の結果によれば被告は前記約束手形の被告印影部分を作成した憶はなく、同手形は本件訴訟になつて始めて見たもので、右訴外人の債務に対する連帯保証について原告から話をされたことも、被告の妻に連帯保証の代理権を与えたこともないとのことを認めることができるのである。次に、追認の点について見るのに、被告は、被告の妻から前記約束手形に記名の事実を聞いた後、昭和二十九年十二月末日頃内田支店長に抗議したが、同支店長から被告に迷惑はかけない、斎藤と解決するといわれ、原告に借もあつたので更に強くいうこともできずそのままにしておいたとの事実を認めることができるが、この事実も、被告が積極的に被告の妻の行為を認めたものとなすことはできず、原告側の言を信じて止むを得ずそのまま放置しておいたものとみられるので、結局法律行為の追認があつたものということはできない。
以上のとおり、被告が訴外斎藤の債務について連帯保証をしたと認めるに足りる証拠はないから、原告の請求は失当であるとしてこれを棄却した。